ドイツの食材
果物・Obst - 秋編 2

果物・Obst - 秋編
自然がおりなす色彩の変化に、また温かく穏やかな陽ざしの中に秋を感じることができます。冬が訪れる前のつかの間の心和らぐ季節を満喫する、それが秋の一日です。これはドイツでも同様で、灰色の空が続く寒い冬が駆け足でやって来る前の一時、ドイツの秋は誰もが自然の色を楽しむ季節です。もちろんそれは戸外だけではなく、家の中でも楽しむことができるのです。グリーンやオレンジ色のカボチャ、赤いリンゴ、そしてゴールデンイエローでジューシーな洋ナシなど、この季節に収穫された自然からの恵みの色を食卓の上で、目で感じ、舌で味わい楽しむことができます。秋は果物や野菜の色となり食卓の上でパレードしています。前回からご紹介しています「ドイツの果物・秋編」、第2回目の今回は洋ナシとその他の秋の果物についてお話いたしましょう。

洋ナシは、正確に言うと「セイヨウナシ・西洋梨」のことで、日本で昔から食べられている丸い「和梨」とは異なる食味を持ち、香りが高く、そして洋ナシ型と言われるフラスコのような独特な姿をしています。洋ナシはその独特な芳香とまろやかな風味、そして柔らかくジューシーな果肉から、広く好まれている果物です。大小さまざまな大きさで、黄緑色や黄茶色の洋ナシが並んだ週末のマルクト(市場)は、熟れ時期を確かめながら買い物をする人たちで賑わいます。洋ナシはドイツではリンゴに次ぐ秋の果物の代表選手として、そのまま生で食べる他に、ジャム、ムース類、さらにはジュースやリキュール等の飲料にも加工され、食されています。ケーキなどの菓子類の主役として、そしてメイン料理の脇役として、秋のキッチンにはなくてはならない食材が洋ナシなのです。

近年は、日本でも秋になると洋ナシが市場に多く出回るようになりましたが、和梨と違って、収穫したての時は堅くおいしくないため、食べ頃を判断するのが難しい果物と言えるでしょう。日本では加工用が主で、生食として食べられるようになったのは近年のことです。一般的に、洋ナシは収穫後、一定期間置くことによって、本来のおいしい味を楽しむことができます。これを“追熟”と言い、果実に含まれるデンプンが分解されて果糖、ブドウ糖などになるとともに、ペクチンのゲル化により、甘みと滑らかさが出てくるためです。

それでは、まずドイツの洋ナシ事情から簡単にご紹介いたしましょう。

ドイツ・洋ナシ事情
洋ナシはリンゴと同じケルン・オプスト(Kernobst)=仁果類に属する果物で、ドイツ語ではビルネ(Birne)、複数形ではビルネン(Birnen)と言います。洋ナシは、その名の通り西洋(ヨーロッパ)が原産の梨ですが、その原種をさらに古くさかのぼると、中国とも中央アジア生まれとも言われており、ヨーロッパへもたらされ変化したものが、現在の洋ナシの先祖のようです。ただし古代ギリシャ時代にはすでに洋ナシは食べられていましたので、その歴史はとても古い果物と言えます。さらに品種も多く、現在世界には4,000種とも5,000種あるとも言われています。

ドイツでは洋ナシはリンゴと同様に、国内ほぼ全ての地域で栽培されており、2006年度に商業栽培で収穫された洋ナシは約48,400トン、その作付面積はおよそ2,200ヘクタールとなっています(統計出典:BMELV)。 

下の表は2005年度と2006年度におけるドイツ各州の商業栽培での洋ナシの収穫量とその作付面積を表したものです。農作物の収穫量はその年の天候に大きく左右されますが、2006年度の洋ナシ収穫量は前年比約26.6%増となっています。

ドイツ国内における洋ナシ(商業栽培)の収穫量および作付面積

2005年度

2006年度

収 穫 量

作付面積

収 穫 量

作付面積

単位:t

単位:ha

単位:t

単位:ha

ドイツ全国

38,259.3

2,175

48,428.1

2,212

バーデン・ヴュルテンベルク州

11,101.5

786

15,878.4

786

バイエルン州

4,487.6

324

6,870.0

324

ブランデンブルク州

341.4

43

520.0

43

ハンブルク州

972.7

42

881.7

42

ヘッセン州

474.4

31

515.7

31

メクレンブルク・フォアポンメルン州

191.3

29

327.2

29

ニーダーザクセン州

7,562.0

326

8,302.0

342

ノルトライン・ヴェストファーレン州

5,426.7

154

5,300.2

154

ラインラント・プファレツ州

4,574.5

256

5,101.7

256

ザールラント州

68.1

7

 

7

ザクセン州

2,300.2

102

3,517.9

124

ザクセン・アンハルト州

310.0

34

469.5

34

シュレースヴィヒ・ホルシュタイン州

208.8

12

 

12

テューリンゲン州

240.1

29

390.6

29

統計出典:ドイツ連邦統計局
(注)ベルリン州及びブレーメン州は統計調査非対象。2006年度のザールラント州及びシュレースヴィヒ・ホルシュタイン州の収穫量に関しては未掲載。


すでにご紹介しましたようにドイツ国内における果物の二大生産州である、ニーダーザクセン州とバーデン・ヴュルテンベルク州では洋ナシの収穫量も多く、特にドイツ南西部バーデン・ヴュルテンブルク州では、2006年度にはニーダーザクセン州の2倍近くの約15,900トンが収穫され、他州を大きく引き離して第1位となっています(統計出典:ドイツ連邦統計局)。またドイツには年間平均約18万トンの洋ナシが輸入されており、ドイツにおける洋ナシの一人当たりの年間消費量は約2.5kgとなっています(統計出典:ZMP)。洋ナシがいかに人気のある果物かが分かります。

なお、日本の気候は洋ナシの栽培にあまり適していないため、洋ナシの産地は山形県をはじめ、長野県、青森県、新潟県、岩手県などに限られています。2006年の収穫量は28,200トンで、品種別には6割近く(16,700トン)がラ・フランスに集中しています(統計出典:農林水産統計)。ラ・フランスは1864年にフランスで発見された品種ですが、現在ヨーロッパではほとんど栽培されておりません。

それではドイツの洋ナシの品種にはどのようなものがあるのか、またどのような味なのか、ちょっとのぞいてみましょう。

ドイツ産洋ナシ

洋ナシは、その姿かたちをはじめとして、皮の色や果肉の色、また果肉の食味やその水分含有量、そして香り等にそれぞれ品種独特な特徴を持っています。洋ナシは酸味度の割合がリンゴより低いため、リンゴと同程度の糖度を持つものでも、甘みを強く感じ、美味しく食べることができます。ドイツ産洋ナシには、リンゴと同じように、収穫されてすぐに市場に並ぶものと、収穫後ある一定の熟成・貯蔵期間を設け、香りを引き出し「食べ頃」に熟したものを出荷するものと、品種によって違いがあります。ただし、リンゴより取り扱いが難しい果物で、品種によっては短期間で熟成が進み、熟れ過ぎの状態になってしまうものもあることから、繊細な果物としてその貯蔵や流通には注意がはらわれています。また現在では低温保存の方法が発達していることから、品種によっては数ヶ月の保存が効くものもあり、秋に収穫されたものが翌年1月、2月頃まで市場に出回っている場合も多く見られます。

それではここで幾つかドイツで人気のある洋ナシの品種をご紹介いたしましょう。

品種名:アレクスサンダー・ルーカス(Alexander Lucas)
収穫時期
9月下旬〜10月上旬にかけて収穫開始
賞味時期
11月〜12月
食味と果肉
ジューシーで甘く柔らかく、風味のある洋ナシです。皮は滑らかで、光沢のあるものとないものがあります。また収穫時に青草色だった皮は熟すと緑黄色になります。実は大きく、収穫後熟成期間中に香りが高まります。
1870年代初頭にフランスの森で偶然発見されたものをフランス中部オルレアンの果樹園で栽培、その後各地で盛んに栽培されるようになった洋ナシの品種です。「アレクスサンダー・ルーカス」と言う名称は、この種を発見した人の名前に由来しているとのことです。この果樹は病気に強いことから一般の庭果樹としても人気があります。収穫後、通常の地下貯蔵室で12月ごろまで、また低温保存庫で数ヶ月の保存が効くため、一冬中市場に出回っていることの多い果物です。主にそのまま生で食されています。


品種名:クラップス・リープリング(Clapps Liebling)
収穫時期
8月中旬〜下旬
賞味時期
8月下旬〜9月上旬
食味と果肉
甘さの中に軽い酸味がある果肉で、心地よい香りが特徴の洋ナシです。粒は大きめで滑らかな黄緑色の皮肌を持ち、陽に当たった面は赤みを帯びます。
「クラップス・リープリング」は“クラップさんのお気に入り”という意味で、1860年頃にアメリカで品種改良されて作られた洋ナシです。品種名はクラップという開発者の名前に由来しています。因みにアメリカでは「クラップス・フェイヴァリット」と呼ばれています。8月中旬過ぎごろから収穫される早生種で、収穫後すぐに熟成してしまうため、保存が効かず、短期間しか市場に出回らない洋ナシです。そのまま生で食することが多く、ドイツでは人気のある品種の一つです。


品種名:コンフェレンス(Conference)
収穫時期
9月中旬〜下旬
賞味時期
9月下旬〜10月
食味と果肉
食味と果肉 ほどよい甘さと風味がある洋ナシで、ジューシーな果肉です。中くらいのサイズで細長めの容姿です。皮は淡緑色で、熟すと緑黄色から黄茶色になります。また白黄色の果肉は、熟すと淡いピンク色になってきます。
1800年代終わりに英国で生まれた品種です。そのまま生で食べるだけでなく、いろいろな料理に好んで用いられる洋ナシです。この品種は低温保存が効くことから、翌年の2〜3月頃まで市場に出回っているようです。


品種名:ケストリッヒェ・フォン・シャルヌ(Köstliche von Charneu)
収穫時期
9月
賞味時期
9月下旬〜10月
食味と果肉
食味と果肉 黄緑色で薄く滑らかな皮を持ち、果肉は白黄色で柔らかくとてもジューシーです。甘く風味があり、酸味が弱い品種の一つです。
「ケストリッヒェ・フォン・シャルヌ」は“シャルヌの美味しいもの”という意味で、ベルギー東部リエージュの近くのCharneu(シャルヌ)という町で1800年頃発見された品種です。因みにベルギーでは発見者の名前を品種名に命名しているとのことです。また、ドイツ北部の地域では「ビュルガーマイスター・ビルネ」(Bürgermeister-birne=市長さんの洋梨)と親しみを持って呼ばれているようです。酸味が弱いことからそのまま生で食されることの多い洋ナシです。また数ヶ月の低温保存が効く品種です。


品種名:ウィリアムス・クリスト(Williams Christ)
収穫時期
8月中旬〜下旬
賞味時期
8月下旬〜9月
食味と果肉
食味と果肉 明黄色の果肉はジューシーで甘く、軽い酸味があります。またほんのりとナツメグ(香辛料)を思わせる香りが特徴です。収穫時には黄緑色をしている皮は、熟すと黄色味を増してきます。教会の鐘のようなシェープです。
「ウィリアムス・クリスト」は英国で発見された品種で、1800年代はじめ頃から盛んに栽培されるようになり、現在でもとても人気のある洋ナシです。北米やカナダ、また日本ではバートレット(Bartlett)と呼ばれ、同名のリキュールは世界的に知られています。そのまま生で好んで食されることの多い洋ナシですが、リキュール以外にジャムやムース、コンポートなどにも加工され、ファーストクラスの果実として好まれています。8月には収穫の始まる早生種で収穫率の良い品種ですが、貯蔵・保存には適さず、収穫後すぐに食されます。


ドイツの秋の果物 - その他

さて「ドイツの果物・秋編」リンゴと洋ナシについてお話を進めてまいりましたが、ドイツにはまだこの他にも美味しい秋の果物があります。最後にそのなかから、ブドウとマルメロを簡単にご紹介しましょう。

ブドウ(Trauben)

ベリー類の仲間に属するブドウを、ドイツ語ではトラウベン(Trauben)と言います。皆様ご存知のようにドイツはワインの一大生産国ですのでブドウの収穫量も多く、またその品種も多くあります。ワイン用と青果・生食用のブドウを区別するために、ワイン用等に加工されるブドウをヴァイン・トラウベン(Weintrauben)、生食されるブドウをターフェル・トラウベン(Tafeltrauben)と呼んでいます。ターフェルとはここでは食卓、テーブルと言った意味ですので、簡単に言うと食卓用のブドウということです。

一般に、生食用のブドウはワイン用のものより粒が大きく、ジューシーで皮が柔らかい品種のものです。ただし、ドイツでは多くの種類のワイン用ブドウがターフェル・トラウベンとしてそのまま生で食べられたり、料理用として使われたりしています。特に煮たり、焼いたりといった調理をする際にはワイン用のブドウが用いられることの方が多いと言ってよいでしょう。

ターフェル・トラウベンは8月から10月にかけてが旬で市場に出回ります。因みにドイツにおけるターフェル・トラウベンの一人当たりの年間消費量は2004年度で約3.6kgとなっています(統計出典:ZMP)。

ドイツ料理のレシピ」コーナーでは、ブドウを使った料理「鴨モモ肉のロースト、グレープ・クリームソース添え」をご紹介しておりますので、一度お試しください。

マルメロ(Quitte)

マルメロのことをドイツ語でクヴィッテ(Quitte)と言います。リンゴや洋ナシと同じケルン・オプスト(仁果類)に属する果物で、5月から6月に花が咲き、その実は9月中旬から10月中旬にかけて収穫されます。ヨーロッパ中部で多く栽培されているようですが、ドイツでもバーデン・ヴュルテンベルク州やラインラント地方で栽培され、品質の良いマルメロが収穫されています。熟すと皮は黄色になり、香りが高くなります。ただし果肉は硬く苦味があることから生で食されることはなく、加工して食します。果肉にはビタミンCをはじめカリウム、鉄などのミネラル分が多く、またペクチンも多く含まれていることから、特にジャムやゼリーに向いています。ムースやジュース、そしてリキュールなどにも加工されています。

「ドイツの果物・秋編」リンゴと洋ナシを中心に2回に渡ってご案内いたしました。洋ナシやリンゴなど生の果物は、日本では植物検疫法の関係で、ドイツから輸入されておりませんが、果物加工調製品としていろいろな製品になり、輸入されています。是非一度これらの製品をお試しになっていただき、遠くドイツの大地に実る果物を想い浮かべていただければ幸いです。またドイツへご旅行に行かれるような機会がありましたら、是非、現地でその季節の果物をご賞味ください。

今回の「ドイツ料理のレシピ」コーナーでは、洋ナシを使って作る料理を2品ご紹介しています。洋ナシと言うとそのまま生で食べることの多い果物と思われがちですが、ドイツでは生食以外にもジャムやムースをはじめとしてケーキやタルトなどの菓子に、そして一品料理にも頻繁に登場します。今回の「ドイツ料理のレシピ」のコーナーではあえて甘いお菓子系のものではなく、一品料理に洋ナシを使ったレシピをご紹介いたしました。日本でも洋ナシは今が旬の果物です。是非一度ご家庭でお試しください。

参照