ドイツの食材
砂糖

砂糖
甘い誘惑の原点、それは砂糖です。ケーキや焼き菓子、チョコレートやキャンディーなどのお菓子にはもちろんのこと、ジャムやコンポート、また飲み物に、さらには調味料の一つとして様々な料理の中に砂糖は使われています。現在の私たちの生活の中では、砂糖は必要不可欠な食品の一つになっていると言っても過言ではないでしょう。ただしあまりにいろいろな食品の中に添加されていることから、毎日の生活の中で無意識に食べてしまっていることも多く、気がつくと食べ過ぎってことになってしまいます。ここから砂糖は肥満のもとだと、責任を押し付けられてしまうわけですが、本当のところ肥満はエネルギー量全体のプラス・マイナスから生じているのです。一日の必要カロリー数に対して、摂取量が消費量よりも多いと太るということです。

砂糖はエネルギーの源となる栄養価の高い自然食品です。栄養学的に言えば、砂糖は脳・神経の働きを活発にするブドウ糖と果糖の結合物ですから、適切な砂糖の摂取は、脳・神経の疲れ(イライラ、集中力の低下)をとる働きがあります。「過ぎたるは及ばざるがごとし」で、食べすぎには注意しないといけませんが・・・

甘いものが大好きなドイツ人。多くの人が健康を気にかけて食生活を送っており、ダイエットに対する関心も高いのですが、それでもやっぱり甘いものは好き、これが結論のようです。因みにドイツ人一人当たりの砂糖年間消費量は2005年度で37kg。日本人の一人当たり年間消費量が17kgですので、ドイツ人は日本人の2倍強の砂糖を消費しているというわけです(統計出典:BMELV、資料:農林水産省)。

ドイツでは砂糖はいろいろな種類のものが用途別に製造、販売されています。紅茶やコーヒー用はもとより、製菓・製パンの際の飾り用、ジャムやフルーツコンポート用などなどです。スーパーマーケットやデパートの食料品売場には、色とりどりのパッケージに入った砂糖が並び、消費者も用途に合った砂糖をチェックして購入している姿を見かけます。

今回から2回にわたってドイツの砂糖について皆様にご紹介いたします。第一回目前半はドイツの砂糖事情をその歴史とともに、そして後半は砂糖ができるまでのお話をしましょう。

ドイツ・砂糖事情
ドイツ語で砂糖のことをツッカー(Zucker)と言いますが、これはイタリア語の「zucchero」が語源とされています。古くはサンスクリット語の砂糖「sarkara」が、後にアラビア語で「sukkar」と変化し、これがイタリア語で「zucchero」になったものです。その昔、アラビア人によってサトウキビ栽培がスペインとイタリア・シチリア島にもたらされ、その後イタリアから砂糖がその呼び名と共に、ヨーロッパ各地へ普及されたことに源を発しているようです。

砂糖の歴史は紀元前300〜400年にもさかのぼれると言われており、東インドでサトウキビから糖蜜を抽出するようになったのがはじめとされています。その後、西暦600年頃、ペルシャで糖蜜から不純物を取り除いた砂糖が作られるようになったようです。

そして11世紀に入り、砂糖は十字軍の遠征によってヨーロッパ各地にもたらされ、貴重品として特に上流階級の人々の間で広まっていきました。なお庶民階級の間では砂糖は白い金とも呼ばれ、高価で手の届かないものだったようです。16世紀の植民地時代には、植民地の産物をもとに国際間の貿易が始まり、砂糖は重要な貿易物資となりました。

砂糖の原料と言えばサトウキビを思い浮かべる方が多いと思いますが、ドイツやフランスなどのヨーロッパ諸国では、甜菜を原料とする砂糖(甜菜糖)が多く使われています。因みに、ドイツ語ではサトウキビをZuckerrohr(ツッカー・ロアー)、甜菜をZuckerrüben(ツッカー・リューベン)と言います。

ご存知でしょうか?実は初めて甜菜糖が発見されたのはドイツで、今から約260年前の1747年のことです。甜菜そのものは、カスピ海やコーカサス地方を原産地とする植物で、主に家畜用の飼料として使われていました。それまでも甜菜から甘い汁が出ることは分かっていましたが、サトウキビと同じ糖成分が含まれていることは知られていませんでした。

1747年、ドイツ・ベルリンの化学者A. S. マークグラーフ(Andreas Sigismund Marggraf)が、飼料用ビートであるルンケル・リューベン(Runkelrüben)にサトウキビと同じ糖成分が含まれていることを発見しました。その後、このルンケル・リューベンの品種改良が進められ、1700年代末に、砂糖用ビート(甜菜)として、ツッカー・リューベン(Zuckerrüben)が登場しました。そして1798年、マークグラーフの弟子により、このツッカー・リューベンから作る砂糖の商業生産が始まりました。

甜菜糖の生産が急激に広まったのは、ナポレオンによる「大陸封鎖令」(1806年)がきっかけと言われています。当時のプロイセン軍との戦いに勝利し、首都ベルリンに入城したナポレオンは「大陸封鎖令」を発令し、ヨーロッパ大陸諸国とイギリス(及びその植民地)との交通・貿易を全面的に禁止しました。そのため、西インド諸島からの砂糖の供給が激減。砂糖価格の急騰を防ぐため、ドイツ、フランスをはじめヨーロッパ各地で甜菜の栽培が奨励され、甜菜糖業は一大産業として成長しました。

EU各国における甜菜の収穫量

2005年度

単位:1,000t

フランス

31,274

ドイツ

25,284

イタリア

14,143

英国

7,163

スペイン

7,273

ベルギー/ルクセンブルク

6,020

オランダ

5,915

ギリシャ

2,834

デンマーク

2,764

フィンランド

2,198

スウェーデン

1,847

ポルトガル

1,719

資料:CMA/TKY 統計出典: Cibe, ZMP, Eurostat

アイルランドとオーストリアは数値記載なし


上の表は2005年度におけるEU各国における甜菜の収穫量をまとめたものです。第一位はフランス(3,127万トン)、ドイツは第二位(2,528万トン)となっており、第三位のイタリア(1,414万トン)以下を大きく引き離しています。

なお、日本で甜菜が栽培されるようになったのは明治時代、1810年ごろで、ヨーロッパでの甜菜糖業の隆盛を目の当たりにした明治政府が導入を図ったものです。現在、甜菜は北海道で栽培されており、その収穫量は2005年度で約420万トン、総作付面積は約6.8万ヘクタールでした。一方、サトウキビは沖縄県と鹿児島県で栽培され、2005年度の収穫量は約120万トンとなっています(統計出典:農林水産省)。北と南にはっきりと生育地域が分かれる甜菜とサトウキビです。

世界の砂糖生産量

2003年度

生産量

単位:百万トン

世界

146.0

ブラジル

24.8

インド

22.1

中国

11.1

アメリカ

8.1

タイ

6.6

オーストラリア

5.4

メキシコ

5.3

フランス

4.3

ドイツ

4.2

パキスタン

4.0

南アフリカ

2.6

コロンビア

2.6

資料:農林水産省 統計出典:FAO


世界における砂糖の総生産量は、2003年度で約1億4,600万トン。約2,480万トンの生産量を誇るブラジルが第1位、その次にインド2,210万トン、中国1,110万トンと続きます。いずれも、サトウキビの主要産地です。

甜菜糖を中心に、約420万トンの砂糖を生産するドイツは世界第9位に位置し、EU域内ではフランスに次いで第2位にランクされています。

因みに、日本の砂糖生産量は2005/6年度で約84万トンとなっています。この他、約134万トンの砂糖が輸入されており、その大部分は粗糖で、国内で精製されてから出荷されています。

ツッカー・リューベン(甜菜)は18世紀後半からドイツ各地で栽培されるようになり、現在ではベルリンやブレーメン、ハンブルクといった一都市で一州を形成している地域を除き、ドイツ国内の多くの地域で栽培されています。ドイツ国内における甜菜の主な生産地は、下図のとおりです。

シュレースヴィヒ・ホルシュタイン州
1) シュレースヴィヒ
2) ディートマルシェン

メクレンブルク・フォアポンメルン州
3) ローシュトック
4) シュヴェリン
5) ノイブランデンブルク

ニーダーザクセン州
6) ハノーファー近郊
7) ブラウンシュヴァイク沃地
8) ヒルデスハイム沃地

ザクセン・アンハルト州
9) ハッレ
10) マグデブルク沃地

ザクセン州  
11) ライプツィヒ近郊

テューリンゲン州 
12) エアフルト盆地

ノルトライン・ヴェストファーレン州
13) ケルンとアーヘン間に広がる地域

ラインラント・プファルツ州
14) ライン川−マイン川−ネッカー川の三角地帯

バーデン・ヴュルテンベルク州
15) ハイルブロン
16) シュトゥットガルト近郊

バイエルン州
17) ヴュルツブルク
18) ドナウ川に沿った一帯


ドイツ全体では2006年度時点で、総作付面積は約36万ヘクタール、収穫量も約2,065万トンにのぼっています。また、2007年度には、概数で約40万ヘクタールの作付面積で約2,500万トンの甜菜が収穫されました(統計出典:ドイツ連邦統計局)。

下の表は2005年度と2006年度にドイツ国内で収穫された甜菜の収穫量と作付面積を州別に表したものです。上図の18の主要生産地のなかでも、特にニーダーザクセン州、バイエルン州、ノルトライン・ヴェストファーレン州の収穫量が目立って多く、この3州で総収穫量の6割近くを占めていることが分かります。

ドイツ州別の甜菜収穫量

2005年度

2006年度

作付総面積

総 収 穫 量

作付総面積

総 収 穫 量

単位:1.000 ha

単位:1.000 t

単位:1.000 ha

単位:1.000 t

ドイツ全国

420.1

25,284.7

357.6

20,646.6

バーデン・ヴュルテンベルク州

20.0

1,320.2

17.7

1,179.4

バイエルン州

70.7

4,687.1

60.8

3,999.0

ブランデンブルク州

9.6

499.6

8.2

358.3

ヘッセン州

17.6

1,061.1

15.5

942.5

メクレンブルク・フォアポンメルン州

23.9

1,177.5

21.1

1,062.6

ニーダーザクセン州

105.4

6,312.8

86.5

4,779.6

ノルトライン・ヴェストファーレン州

63.9

4,066.1

56.7

3,400.0

ラインラント・プファレツ州

22.3

1,305.2

18.8

1,227.5

ザールラント州

0.0

 

0.0

ザクセン州

16.0

972.0

13.5

690.7

ザクセン・アンハルト州

47.5

2,578.9

39.7

1,877.8

シュレースヴィヒ・ホルシュタイン州

12.6

749.9

10.1

581.5

テューリンゲン州

10.5

591.0

9.0

487.4

統計出典:ドイツ連邦統計局
ザールラント州の収穫量に関しては未掲載

ツッカー・リューベン(甜菜)からツッカー(砂糖)ができるまで

長い間、砂糖は熱帯から亜熱帯地域で栽培されるサトウキビからのみ作られ、贅沢で大変高価な食品でした。しかし1747年にA. S. マークグラーフによってもたらされた甜菜糖の発見によって、その後、実用化、産業化が進み、最終的には誰もが買うことのできる価格で販売されるようになりました。

甜菜はホウレンソウと同じアカザ科の植物で、地上部にはホウレンソウを大きくしたような葉が出ています。根の形はカブに似ており、根の部分に蓄えられている糖分を抽出して砂糖が作られます。

砂糖生産世界第9位を誇るドイツでは、年間2,000万トン以上の甜菜が収穫されています。ではどのようにしてツッカー・リューベン(甜菜)がツッカー(砂糖)になるのでしょうか。これからドイツの製糖についてその製造工程を原料栽培のはじめから順にご説明してまいりましょう。

■栽培

3月から4月にかけて農地が十分に乾燥し、温まってきた時期に種まきがはじまります。

ドイツでは播種の際、甜菜のコート種子を使います。これは種子の表面に保護層をコートしたもので、このコート材には環境に配慮した殺真菌剤や防虫剤が使われています。コート材によって種子はカビや害虫から守られるわけです。

好天候の条件下で甜菜の種子は2週間ほどで土から芽を出します。始めは葉の成長の方が根よりも早く、葉がどんどんと大きく茂っていきます。風にそよぐ葉は、大地を緑のじゅうたんで敷き詰め、ドイツの田園風景を演出します。そして大きく成長した葉は太陽の陽を浴び、光合成を活発に行い、それに伴って根が成長、糖分が蓄えられていくのです。苗は十分な太陽光線と空気の循環を得るため、それぞれが30cm前後の間隔を持って植えられているのが最適とされています。

■収穫

甜菜の収穫は播種から約180日、9月になると始まり、約2ヶ月間かけて行われます。大きく成長した根は、多いものではその重量の約24%にもなる糖分を蓄えています。

収穫には特別な収穫用の機械を用い、葉を切り落としながら、根だけを掘り起こし、土を取り払い、貯蔵器の中に入れていきます。葉は畑に残されて施肥となり、土に還ります。あるいは家畜の飼料になる場合もあります。

収穫された甜菜は直ぐに製糖工場へ運ばれる場合と、畑の一角の集積所へ積まれ、出荷されるのを待つ場合があります。いずれにしても工場へ出荷される前には、甜菜についた土を再度、取り除きます。なるべく土が畑に残るように配慮されているわけです。

甜菜は、収穫後も根に蓄えた糖分を使って呼吸をしており、出荷待ちの間に徐々に糖分が減少していきます。そのため、大規模な集積所や貯蔵庫では換気に努め、庫内温度を低く保つよう、温度変化にも注意が配られています。


■製糖工場

甜菜の根部は、砂糖原料として製糖工場へ出荷されます。因みにドイツ語で製糖工場のことをツッカー・ファブリック(Zuckerfabrik)あるいはツッカー・ラフィネリー(Zuckerraffinerie)と言います。

製糖工場へ到着すると、まず水できれいに洗浄されます。そして裁断機にかけられ、細長くカットして、糖分を抽出しやすくします。このカットされた細長い切片をリューベン・シュニツェル(Rübenschnitzel)と呼びます。

次に、このリューベン・シュニツェルは、高さ約20mのエクストラクツィオンス・トゥルム(Extraktionsturm)と呼ばれる抽出塔の中で温水をかけられながら、下部から上部へと移動していきます。熱を加えることにより細胞が柔らかくなり、細胞液の中に含まれる糖分が水のなかへ抽出されていくわけです。微生物の汚染防止にも効果的です。この工程でリューベン・シュニツェルから99%以上の糖分が抽出されるということです(資料:Zuckerverbände, Bonn)。なお糖分を抽出した後のシュニツェルは、脱水、乾燥、成形して、質の高い家畜飼料になります。

こうしてできた糖分抽出液を抽出塔の下部から取り出します。この抽出液はドイツ語でRohsaft(ロー・ザフト)、英語ではRaw juice(ロージュース)と呼ばれ、ダークグレーの液体には85〜87%の糖分が含まれています。残り13〜15%の非糖分物質をロー・ザフトから取り除いていくのが、次のザフト・ライニグング(Saftreinigung)と呼ばれる浄化工程です。この浄化工程ではロー・ザフトにカルク・ミルヒ(Kalkmilch、英語:Milk of lime)と呼ばれる石灰液と炭酸ガスを加え、非糖分物質と結合させて、ろ過機で除去していきます。ここでダークグレーの色をしたロー・ザフトは、きれいに澄んだ明黄色の液体となり、糖分の純度は90%前後にアップします。これをデュン・ザフト(Dünnsaft)、英語ではThin juice(シンジュース)と呼んでいます。

次に、フェアダンプフ・シュタツィオン(Verdampfstation)と呼ばれる工程で、水分を蒸発させる作業を行います。澄んだ液体デュン・ザフトを蒸発器に入れ、その含有糖分が65〜70%になるまで水分を気化させ、濃縮させます。

因みにこの工程では蒸発器を何台も隣通しに並べ、順繰りにデュン・ザフトを通していきます。蒸発器を直列に並べるのは、一台目で排出された熱蒸気を、二台目を熱するために使用するためで、これを並んだ蒸発器に順送りしていきます。エネルギーの節約、省エネが考えられているというわけです。この工程を経て濃縮された液はディック・ザフト(Dicksaft)、英語ではThick juice(シックジュース)と呼ばれています。

濃い金茶色をした糖液ディック・ザフトはコッホ・シュタツィオン(Kochstation)と呼ばれる次の工程で、さらに水分を気化させ、結晶化させます。この際、糖がキャラメル化しないように釜内の圧力は下げられ、温度も65〜80度に抑えられています。こうして生まれるのがフュル・マッセ(Füllmasse)と呼ばれる、糖の結晶とシロップ(糖蜜)が混ざったどろりとした糖液です。因みに日本ではこれをマスキットと呼ばれています。

このフュル・マッセを攪拌器に入れ、冷やします。この際にも糖の結晶化は進みます。そしてこれを遠心分離機にかけ、糖の結晶とシロップに分離します。

この段階では水分が多いウェット状態ですから、結晶を温風乾燥後、冷却し、最後に、表面に付着したシロップを落とすと、白い砂糖が出来上がります。

この出来た砂糖を再度溶かし結晶化させると、高品質の砂糖「ラフィナーデ」(Raffinade)となります。ドイツではこのラフィナーデが一般に用いられている砂糖です。

一方、遠心分離器で分離されたシロップにはまだ砂糖が含まれているため、コッホ・シュタツィオンへ戻して、結晶化させ、遠心分離機にかけて、再度、砂糖を回収します。最終的に残ったシロップをメラッセ(Melasse)と言います。日本ではこれを廃糖蜜と呼んでいます。このメラッセには水分、非糖分物質とともにまだ糖分が50%ほど残存していますが、これ以上は結晶化しないことから、砂糖精製の際の副産物として家畜の飼料に加工されたり、製パン用酵母の製造原料などに使用されたりしています。


    ドイツの砂糖、今回はその精製工程を甜菜の栽培からご紹介してまいりました。だいぶドイツ語のカタカナ表記が多く、戸惑われた方もおいでと思います。日本語でも業界専門用語が多数ありますが、ここではなるべくドイツ語の表現をご紹介したくカタカナ表記とさせていただき、わかりやすく日本語で説明を加えました。

    毎日、コーヒーや紅茶に入れたり、調理に使ったりしている砂糖が、さまざまな工程を経て作られていることがご理解いただけたと思います。ドイツでは多くの種類の砂糖が製造販売されています。次回はこれら砂糖の種類についてご案内いたします。

    今月の「ドイツ料理のレシピ」コーナーではスープを3品ご紹介しております。寒い冬の日に、体の中から暖まるスープです。いずれも簡単にできるものですので、是非一度お試しください。

    参照