ドイツの食材
バター

バター
毎回この「ドイツの食材」コーナーで皆様にご紹介しております食材は、ドイツ人が大好きな食材ばかりですが、今回ご紹介しますバターもまたドイツでは愛されている食材の一つです。

生乳の乳脂肪分から作られるバターは、サンドイッチやパンに塗るのをはじめ、ニンニクやハーブなどと混ぜ合わせいろいろな料理の付け合せとして用いたり、肉や魚を焼く際の油として、さらに温かい煮込み料理の味付けなどに使われています。バターは西洋料理には必要不可欠の食材で、特にフランス料理などのソースのベースにはもちろんのこと、お菓子にも常に使われていると言ってもよいほどです。いろいろな役柄を演じ、私たちの食生活を美味しく楽しいものに演出しているのがバターなのです。

バターには三大栄養素であるタンパク質、炭水化物、脂肪がバランスよく含まれています。100g中に含まれるカロリー値が高いため、昨今の健康志向の高まる中、バターを摂りすぎないようにと敬遠されがちですが、一度にパンに塗る分量や、料理に含まれる量ではあまり心配する必要はないようです。栄養学的には、バターにはビタミンA、ベーターカロチン、ビタミンD、E、脂肪酸、さらにはミネラル類などが含まれています。ビタミンAは肌を健康に保つことで知られていますし、ビタミンEは老化防止に優れた栄養素ですので、 体に良いものばかりを持つ優れものがバターと言っても良いのではないでしょうか。もちろん「過ぎたるはおよばざるが如し」で、食べ過ぎはいけませんがね。

因みにドイツ人一人当たりのバターの年間消費量は、日本人の10倍近くにもなります。今回から2回に渡り、皆様方とご一緒にドイツでバターが愛される秘密を探してまいりましょう。

バターの歴史
まずはバターの歴史から紐解いてみましょう。いったいいつごろからバターが私たち人間の生活に登場したのでしょうか?これについては残念ながらはっきりとした年代はわかっていません。人間がヤギや羊、牛などの動物を家畜として飼育するようになった紀元前6000年頃、バターも登場したのではないかと推測されています。歴史研究家の説によると、遊牧民が牛乳を容器に入れて運んでいる際に馬の背で揺れ、撹拌されてできたのが現在のバターの前身だったとのことです。言わば、偶然の産物として生まれたものと考えられています。

またメソポタミア文明の都市国家であったウルの出土品から、当時インドゲルマン民族のシュメール人がすでに牧畜を営みバターを生産していたことを見て取ることができるそうです。これは何と今から5000年前頃のお話です。

バターが文献に最初に登場したと言われているのが今から3000年ほど前の旧約聖書で、ソロモンの箴言の中に、牛乳からバターができるという一説があるとのことです。ただしバターの歴史については諸諸説説あり、バターが食用としていつごろから作られていたかについても、紀元前すでにという説もあれば、もっと後になってからと言う説もあります。古代ギリシャやローマ時代のバターは、食用としてではなく、髪や体に塗る薬用として用いられていたようです。

いずれにしても、バターは私たちの想像をはるかに超える昔に生まれ、その長い年月を歩いてきた食材なのです。そして徐々に各国・各地方に広まり食されるようになったわけです。

中世の頃のバターはその短い保存期間のため、上流階級の人々の特別な食べ物として扱われていました。コース料理の最後に、あるいはデザートとして供されていたようです。そしてバターがその長い歴史の中で最も注目を集め、その後現在に至るまで多くの人から好まれる食材となったのが、19世紀に入ってフランス料理の有名なシェフ、マリー・アントワーヌ・カレーム(1784年~1833年)が作った料理を通してでした。カレームは現在のフランス料理の基となる形であるHaute Cuisine(オート・キュジィーヌ)を生み出した料理人で、バターを使ったソースや野菜の料理を生み出し、当時の宮廷での正餐に供しました。こうしてバターを使った料理に関心が高まっていきました。

昔、昔に誕生したバターですが、「バター」と言う呼び名はずっと新しいもので、16世紀に入って登場しました。これはギリシャ語の「Bou-tyron」がラテン語の「butyrum」に派生し、さらにこのラテン語を西ゲルマン民族が「Butter」と言う言葉にしました。この「Bou-tyron」を文字通りに訳すと「牛のクワルク(フレッシュ・チーズの一種:カード)」と言う意味だそうです。ドイツ語でバターは英語と同じ綴りで「Butter」と書きますが、発音はバターではなく「ブッター」となります。因みにブッターは女性名詞です。

19世紀中頃までバター作りは労力がかかるものでした。牛乳を幅広の容器に入れ、クリームが分離するまで放置し、そのクリームをすくい取り、樽の中に入れます。そしてこのクリームがバターとなる脂肪分と残りの液体であるバター・ミルクとに分離するまでひたすら撹拌します。こうしてバターが完成するわけですが、大変な労力の上に出来上がる食材でした。

しかし1877年に遠心分離器が発明されると、労力は非常に軽減され、それに伴い製造量も増えていくようになりました。時が進み20世紀に入ると、技術の進歩とともに、バターは近代的な工場で生産されるようになり、その生産量も画期的に伸びていきました。

日本におけるバターの生産は、明治維新後のことで、それ以前にもバターあるいはバターに近いものは幾度となく海外からもたらされたようですが、あまり一般的に知られることはなかったようです。

バターが大好きなドイツ人、ではいったいどのくらい好きなのか、現在のドイツのバター事情についてお話を進めてまいりましょう。

ドイツのバター事情
バターの原料は生乳で、ドイツでは乳用牛の飼育頭数は約416万頭、生乳の生産量も2,800万トン以上となっています(統計出典:ZMP、2005年時点)。以下の表1はドイツ国内で搾乳された生乳がいろいろな乳製品へと加工される量を用途別に示したものです。飲用牛乳、あるいは生クリーム、バター、チーズなどの乳製品の加工用原料となる生乳は2,738万トンで、そのうちバターの原料となる生乳は895.2万トンになっています。日本で生産される生乳総量が2005年度で約828.5万トンですので、同量以上の生乳がドイツではバターに加工されていることになります(統計出典:農林水産省)。

895.2万トンの生乳は合計で43.7万7トンのバターに加工されます。以下の表2はドイツとEU主要各国のバターの生産量について、2002年、2003年そして2006年を比較したものです。2002年時点ではフランスが45万トンでEU域内では第1位、ドイツは43万トンで第2位の生産量でしたが、これが2003年に逆転して以来、ドイツがEU域内ではバター生産量第1位を誇っています。


表1 ドイツ国内における生乳生産量および用途別処理量

2005年

単位:1,000トン

乳用牛(単位 1.000頭)

4,164

生乳

28,453

用途

飼料用

964

その他

168

牛乳および乳製品用

27,380

輸入生乳(クリームを含む)

1,001

牛乳および乳製品用加工処理可能量

28,381

牛乳および乳製品加工処理量・内訳

 

牛乳

3,617

クリーム

4,177

サワーミルクおよび乳飲料

2,052

コンデンスミルク

714

粉乳

846

バター

8,952

硬質-、軟質-、セミハードチーズ

7,069

フレッシュチーズ、クワルク

1,089

輸出

1,497

その他、不足分調整

699

加工処理・最終量 : 合計

30712

統計出典:ZMP


表2 ドイツおよびEU主要各国のバター生産量

単位:1,000トン

2002年

2003年

2006年

ドイツ 1)

434.5

451.8

437.0

フランス

453.1

435.6

420.1

ポーランド

157.9

167.0

166.0

アイルランド 1)

146.0

140.1

144.0

オランダ

119.4

116.4

125.1

イタリア

130.6

122.0

121.2

イギリス

135.9

130.7

117.1

スペイン

55.7

52.2

45.3

チェコ

63.7

63.1

41.1

デンマーク

50.3

53.7

38.1

ベルギー

38.0

44.0

34.0

ポルトガル

27.5

26.3

28.6

ギリシャ

0.7

0.6

0.7

EU-25ヶ国

2,021.6

2,008.5

1,901.8

EU-15ヶ国 

1,735.3

1,716.0

1,645.1

統計出典:ZMP
2006年度は暫定値
1)その他のクリームから製造される乳脂加工調製品含:バター相当量


下の表3は主要各国の2005年における一人当たりのバター年間消費量を示したものです。ドイツ人が一人当たり年間6.1kgのバターを消費するのに対し、日本人は700gとなっています。もちろんこれは、食生活の違いを如実に現わしている結果ですので、単純に比較することはできません。なお2006年の暫定値ではドイツ人一人当たりの消費量は6.6kgに増加しています。

またバター生産量ではEU第1位をドイツに渡したフランスですが、一人当たり消費量ではドイツ人を上回る7.4kgになっています。

なお、ドイツでは約10.6万トンのバターを輸入しています。このうち、9.9万トンがEU25ヶ国からの輸入で、近隣諸国からの輸入が9割以上を占めていることになります。この他、バター脂とバターオイルを2.4万トン輸入しています。

ドイツのバター輸出はEU各国へは約7.6万トン、その他の国へは約2.3万トンとなっています。因みに日本へは2005年で1,300トン輸出されました(統計出典:ZMP)。

表3 主要EU各国およびその他各国における一人当たりのバター消費量

2005年

単位 kg

ドイツ

6.1

フランス

7.4

ポーランド

4.2

アイルランド

2.8

オランダ

3.3

イタリア

2.8

イギリス

3.7

スペイン

1.0

デンマーク

1.6

ギリシャ

0.8

スイス

5.5

ロシア

2.7

カナダ

3.3

アメリカ

2.1

オーストラリア

3.7

ニュージーランド

6.3

日本

0.7

統計出典:ZMP

世界のバター事情
世界全体に目を向けると、2007年のバター生産総量(速報値)は前年比5.6%増の738.3万トンでした(統計出所:USDA)。表4に明らかなように、主なバター生産国(地域)としてはインド(336.0万トン)、EU-27ヶ国(204.0万トン)が群を抜いて多く、以下、アメリカ(69.3万トン)、ニュージーランド(41.9万トン)、ロシア(30.0万トン)の順になっています。因みに日本は7.7万トンです。

インドは年間1億トン近い生乳を生産する世界最大の生乳生産国ですが、うち6割弱はバッファロー(水牛)の乳で占められます。また、インドで生産されるバターの殆どはギー(ghee)という乳脂肪99.9%の液体で、かつ自国内で生産したバター(ギー)のすべてを自国内で消費しています。そのため、バターの世界的貿易にはインドが登場せず、輸出国(地域)の上位に位置するのはニュージーランド(40万トン)とEU-27ヶ国(26万トン)です。一方、バターの輸入量が最も多いのは、ロシア(13万トン)で、中国の場合は食生活の違いから、バターの消費は未だそれほど進んでいないようです。

表4 世界のバターの生産、消費と貿易(2007年速報値)

 

生産

消費

輸入

輸出

1位

インド

3,360

インド

3,360

ロシア

130

ニュージーランド

400

2位

EU-27ヶ国

2,040

EU-27ヶ国

1,940

EU-27ヶ国

88

EU-27ヶ国

260

3位

アメリカ

693

アメリカ

654

メキシコ

50

オーストラリア

80

4位

ニュージーランド

419

ロシア

420

アメリカ

16

アメリカ

35

5位

ロシア

300

メキシコ

171

オーストラリア

13

カナダ

16

(参考)日本

77

 

88

 

9

 

0

合 計

7,383

 

6,974

 

345

 

811

出所:USDA(米国農務省)「Dairy: World Markets and Trade」2007年12月
単位:百万トン

ご承知の方も多いと思いますが、2007年の乳製品の国際相場価格は、小麦、トウモロコシ、大豆などを凌ぐ勢いで上昇しました。バターも例外ではなく、トン当たり価格は2006年9月の1,638ドルから2007年9月のピーク時には2倍以上の3,700ドルに上昇し、関連業界に大きな影響を及ぼしました。その主な要因としては、(1)上記の表4にも明らかなように、バターは元々、生産に占める貿易比率が非常に少なく、輸出可能国(地域)が限られていること、(2)そのため、特定の国(地域)に何らかの異変が起きると、価格に大きく反映してしまう構造にあること、(3)バターだけでなく、チーズ、脱脂粉乳など乳製品全体に対して、中国、ロシア、中東産油国などを中心とする振興国、途上国から継続的な需要が高まっていること、(4)オーストラリアの記録的な干ばつで乳製品の需給が逼迫したこと、などがあげられます。

ご参考までに日本でのバターの輸入についてのお話をしておきましょう。日本では、国内生産者を保護するため、『加工原料乳生産者補給金等暫定措置法』という法律を設けており、バター、脱脂粉乳、ホエイの輸入については農畜産業振興機構(ALIC)が窓口となって一元管理しています。従って、バターの輸入者はALICと「買入・売戻契約」を結び、ALICが輸入者から一旦買入れてから、売戻すという仕組みになっています。

また、輸入バターの多くは発酵バター(次項でご説明します)で、日本で一般に市販されているバター(非発酵バター)とは風味や香りが異なるため、そのほとんどは乳業メーカーの加工用原料(加工乳、アイスクリーム、製菓・パンなど)に利用されており、一般市場で消費者に直接販売されるのはごくごく限られています。

ドイツのバター:牛乳からバターへ

バターの基本的な製造原理は、数百年前も現在も殆ど変わりません。ただし以前は人力によって作業されていた工程が、現在は衛生条件が厳格に管理された工場で近代的な機械によって作られており、その製造技術は、以前とは比べものにならないほどバターの品質を高め、良質の製品を消費者へ提供することを可能にしています。

それでは簡単に現在ドイツのバターがどのように作られているかご説明いたしましょう。

バターの製造工程の第一段階は、生乳を分離機(Separator:ゼパラトアー)に入れることから始まります。なお、1kgのバターを作るためには25リットルの生乳(あるいは2.5リットルのクリーム)が必要となります。

この分離機の中で生乳からクリームを分離させます。ドイツ語では、この分離されたクリームをミルヒ・フェット(Milchfett)またはラーム(Rahm)と呼び、38〜42%の乳脂肪分が含まれています。クリームを取り出して残ったものはマーガー・ミルヒ(Magermilch)と呼ばれる脱脂乳(スキムミルク)です。

次に分離させたクリームを95℃〜105℃で加熱殺菌(Pasteurisierung:パストリジィールング)します。

加熱殺菌処理後、直ちにクリームを冷却します。ここでクリームの温度は次の熟成工程での適温13〜16℃にまで下げられます。

次に熟成工程に入りますが、ここからはバターの種類によって工程が変わってきます。ドイツには大きく分けて3つの基本となるバターの種類があります。

ザウアー・ラーム・ブッター(Sauerrahmbutter)
これは発酵バターのことで、冷却したクリームに乳酸菌を加えた後、7〜10時間ほど熟成させます。左図(1)の工程です。

ズュース・ラーム・ブッター(Süßrahmbutter)
ズュース・ラームは文字通り訳しますと甘いクリームと言う意味ですが、これは非発酵バターのことを言います。英語ではスイート・クリーム・バター(sweet cream butter)です。発酵させないで作りますので、冷却したクリームに乳酸菌は加えずに、そのまま10℃前後の温度で数時間から、長いもので15時間ほど熟成させてから、最終工程へと送ります。

ミルト・ゲゾイエルテ・ブッター(Mildgesäuerte Butter)
ドイツ語のミルトとはマイルドの意味で、マイルド発酵バターのことを言います。非発酵バターと同じように、まずは何も加えずに熟成させ、その後乳酸菌、あるいは乳酸を添加します。左図(2)の工程です。因みにこのマイルドなバターがドイツでは一番人気のバターです。

ドイツ語ではライフング(Reifung)、日本での業界用語ではエージングと呼ばれる熟成の間に、クリームの中の乳脂が結晶粒となっていきます。なお、この熟成の際の温度や熟成時間は、季節やその日の気温によって、さらには完成したバターの特徴など、例えばパンに塗る際の伸び方、滑らかさなどですが、いろいろな条件によって変化してきます。またバターのメーカーによっても、温度や時間設定は違ってくるようです。

さてその熟成が終わった後、どの種類のクリームもフェア・ブッテルング(Verbutterung)と呼ばれる、クリームがバターに変身する工程へと入ります。 日本ではこの工程を、英語から取ってチャーニング(churning)と呼んでいます。

クリームを8〜10℃の温度に下げ、大きな回転シリンダー形状の機械の中に入れます。そして熟成の間に結晶粒となった乳脂(Rahmfettkugelchen:ラーム・フェット・クーゲルヒェン)が凝固して、バター粒(Butterkörner:ブッター・ケルナー)となり、液体ブッター・ミルヒ(Buttermilch:バター・ミルク)と分離するまで撹拌します。この間にバター粒は粒同士がくっつき、バターの塊が出来上がるのです。バター・ミルクを取り除いた後、バターを水もしくは脱脂乳で洗います。

最後に、バターの中にまだ残っているバター・ミルクを取り除くために、よく練ると、香りの高いバターが完成します。出来上がったバターをそれぞれの用途別に形を整え、包装して製品として出荷します。

なお、ドイツのバターは乳脂肪分82%以上、水分は16%以下と決められています。

さて今回はドイツのバターについて基本的な部分をご紹介してまいりました。日本でも食生活が西洋化した昨今、バターの消費量も増えていますが、和食との併用の食文化ですので、欧米諸国とは比較にならない大きな差があります。それでもパンに塗ったり、お菓子に入れたり、料理に使ったりと、日本の家庭でもバターは活躍しています。次回はバターの品質について、そしていろいろなバターを使ったメニューをご紹介する予定です。

今月の「ドイツ料理のレシピ」コーナーではマフィン2品と豚肉とリンゴを生クリームで煮込む料理をご紹介しています。マフィンと言うと、イングリッシュ・マフィンやアメリカのマフィンが有名で、ドイツ出身のお菓子ではありません。しかし現在ドイツでは、アメリカや英国のレシピを使ったものだけでなく、パウンドケーキ等に使う生地を用いてカップケーキ型の小さいケーキに焼いたものもマフィンと呼んでいます。今回ご紹介しているマフィン2品はどちらも簡単に出来て、大変美味しいケーキです。お友達のお集まりやお子様のおやつに是非一度お試しください。また豚肉とリンゴの料理もパスタやライスに良く合う、濃厚な味の中にリンゴのさっぱり感が楽しめる美味しい一品です。今晩のご夕食にいかがでしょうか・・・・お勧めいたします。

参照