ドイツの食材
バター 2

バター
ドイツにおけるバター生産量はEU域内ではフランスを抜いて第1位、世界の中でも毎年第5位、もしくは第6位に位置しています。因みに2006年度におけるドイツでのバター生産量は43万7千トンにのぼりました(統計出典:ZMP)。

ドイツ人一人当たりのバター年間消費量は2005年度で6.1kg。これはドイツで一般に市販されている250g入りパッケージのバターを、年間24個強(毎月2個程度)一人で消費していることを意味しています。食生活の違いから、簡単に比較することはできませんが、日本人の一人当たりのバター年間消費量は700gですから、いかに多くのバターがドイツで消費されているかが分かります。また、フランス人のバター年間消費量はドイツ人を上回る7.4kgとなっていますので、隣国同士バターが大好きな国民です。ご参考までに、アメリカでは2.1kg、イギリスは3.7kg、オランダは3.3kgとなっています(統計出典:ZMP)。

なぜドイツ人は、これほどバターが好きなのでしょうか?その答えのトップに、ドイツ産バターは「高品質」で「美味しい」ということを挙げて間違いないでしょう。ドイツ飲食料品の品質管理の厳しいことは、すでにいろいろな食材をご紹介する度に皆様にご案内してまいりましたが、バターについても、それは例外ではなく、その品質は厳しく規定されています。飲食料品業界で「食の安全性」が問われる昨今、厳しい品質管理システムが確立されているドイツの飲食料品は、安心で高品質と広く認められています。

「ドイツの食材・バター」第2回目の今回は、ドイツのバターの品質とその管理について、そして後半はバターを使った料理のレシピをいろいろとご紹介いたします。また最後にバターのこぼれ話として、ドイツ語の慣用句を一つご紹介いたしますので、お楽しみください。

ドイツのバター・品質と管理
ドイツに数ある食品法の一つに、『バター令』(Butterverordnung:ブッター・フェアオルドゥヌング)と呼ばれる法律があります。この中で、バターはその製造からはじまり、品質等級、品質必要条件、品質検査、パッケージの内容表示等など、広範囲に渡って規定されています。さらに『バター令』の法規自体も、専門家によって常にその内容が検討され、いかに消費者へ安全で高品質な美味しいバターを提供できるか考えられています。バターはドイツで最も厳しい製品品質管理を受けている食品と言っても過言ではなく、その品質必要条件も厳しいものとなっています。これからその品質管理について、簡単にお話いたしましょう。

バターの種類と製造:
前回ご案内いたしましたように、ドイツのバターは、「ザウアー・ラーム・ブッター(Sauerrahmbutter)」と呼ばれる発酵バター、「ズュース・ラーム・ブッター(Süßrahmbutter)」と呼ばれる非発酵バター、そして国内で一番人気のあるマイルド発酵バター、「ミルト・ゲゾイエルテ・ブッター(Mildgesäuerte Butter)」の3つの種類に分けられています。発酵バターはクリームに乳酸菌を加え発酵させた後、熟成させて、また非発酵バターはクリームをそのまま熟成させて作ります。マイルド発酵バターはクリームを熟成させた後に乳酸菌を加えて作ります。3種3様の製造工程を通ったバターはそれぞれが特徴ある味を持つ製品となり、市場へと出荷されて行きます。

 ドイツでは、バターは食塩無添加で製造されたものが一般的で、加塩されたバターはその旨をパッケージに表記するよう決められています。

食塩不使用バターは乳脂肪分82%以上で、水分含有量は16%を超えてはならないと規定されており、食塩が添加されたバターは乳脂肪分80%以上と規定されています。そして、いずれのタイプでも、その他の成分(乳糖、乳たんぱく、ミネラル分や脂溶性ビタミンなど)は2%を超えてはならないとされています。

品質等級および品質検査:
ドイツ産バターは、ドイチェ・マルケン・ブッター(Deutsche Markenbutter)とドイチェ・モルケライ・ブッター(Deutsche Molkereibutter)と呼ばれる2つの品質等級(Handelsklasse:ハンデルス・クラッセ)に分けられています。ドイチェ・マルケン・ブッターとは日本語に直訳すると「ドイツ産トップ・ブランド・バター」となりますが、「ドイツ産最高級バター」のことで、ドイツ国内ではその名の通り最高品質のバターとして、消費者に広く知られています。

一方、ドイチェ・モルケライ・ブッターは「ドイツ産純バター」と訳されています。ただし近年、このドイチェ・モルケライ・ブッターの生産量は激減しており、スーパーなどの小売店ではほとんど見かけなくなりました。因みに2006年度のドイツにおけるバター生産量43万7千トンの内、ドイチェ・モルケライ・ブッターの生産量は僅か7千トン弱にすぎません(統計出典:ZMP)。換言すれば、ドイツではドイチェ・マルケン・ブッターが圧倒的シェアを誇り、絶大な人気を持っているというわけです。

『バター令』の中で、これらの両等級バターは、殺菌された生乳、あるいは生乳から摂られたクリーム(Rahm:ラーム)、もしくはホエイ・クリーム(Mokerahm:モルケ・ラーム)から製造することと定められています。そして発酵、非発酵、マイルド発酵の3種類のバターは、基本的にこの品質等級のどちらかの等級に属することになっています。

『バター令』では、それぞれのバターの品質検査についても規定を設けており、ドイチェ・マルケン・ブッターの場合は1ヶ月に1度、ドイチェ・モルケライ・ブッターは2ヶ月に1度検査を実施するよう指定されています。この品質検査の際にチェックされるのは、以下の4項目です。

  1. 外観、形体、香り、味、テクスチャー
  2. 水分含有量
  3. 硬性
  4. pH値および微生物含有検査

    1〜3の項目については、それぞれ5段階のポイント制で点数がつけられます。
    ドイチェ・マルケン・ブッターの場合は、それぞれのテスト項目につき4点以上が、またドイチェ・モルケライ・ブッターではそれぞれの項目に3点以上が必要とされます。
    4の検査は公的検査試験所での測定検査となります。
    ドイツではこの定期的な品質検査の他に、バター製造工場あるいは加工工場での抜き取り検査、さらには小売店舗でのバターの抜き取り検査も実施されており、等級バターの品質は厳しく管理されています。

なお、ドイツにはこの2つの他に「ドイチェ・コッホ・ブッター(Deutsche Kochbutter)」と呼ばれる品質等級があります。日本語に直しますと「ドイツ産調理用バター」となり、レストランや給食施設などの業務用、また各種の加工食品製造工場、製菓・製パン工場といった大口ユーザーにのみ提供されているバターで、一般のスーパーなど小売店では取り扱われていません。

また国外で製造されドイツへ輸入されるバターは、『バター令』に則った品質必要条件を満たせば、「マルケン・ブッター(Markenbutter)」の品質等級名称を表記することが許可されています。

品質表示:
バターのパッケージに表示される内容もまた、法で厳しく規定されており、下記の項目について表記することが義務づけられています。

        • 製品種類名:「バター」という名称が入っていること。
          ドイチェ・マルケン・ブッター、あるいはドイチェ・モルケライ・ブッターと書かれていることもあります。
        • バターの種類:発酵、非発酵、マイルド発酵バターのいずれかを表記します。
        • 乳脂肪分含有量:%で表記します。
        • 製造者、加工者あるいは販売者の名称および住所
        • EU統一マーク:国名、製造工場認可番号等
        • 添加物:ベーターカロチンや食塩含有量など。
          加塩されたバターで塩分が0.1%以上のものには、「食塩添加バター(Gesalzene Butter)」と明記する義務があります。
        • 賞味期限:保存温度の明記がなく、単に「冷蔵保存」と書かれている場合の賞味期限は、10℃で保存した際の日付となります。
        • 品質保証マーク:「ドイチェ・マルケン・ブッター」にはドイツ国内で品質検査済のバターであることの証明となるマークをつけます。上のバターパッケージの写真で上面左にある「鷲」のマークです。円の囲みの中には「In Deutschland geprüfte Markenware」(ドイツ国内で検査済み製品)と書かれています。
        • 内容量:グラムで明記します。
        • 輸入されたマルケン・ブッターには品質管理検査所の名称や品質検査を実施した連邦州を表記することが義務付けされています。

その他のバター:
ドイツにはこの他にも脂肪分をカットしたバター等もあります。これらはそのカットした分量によって「3/4バター」(Dreiviertelfettbutter)、あるいは「ハーフ・バター」(Halbfettbutter:乳脂肪分39%以上41%以下)と呼ばれています。因みに3/4バターはバター・ライト(Butter leicht)とも呼ばれており、乳脂肪分を60〜62%にしたものです。

さらにハーブを添加したハーブ・バターやマスタード・バター、また蜂蜜の入ったハニー・バター、ヨーグルト・バターなども製造販売されています。

ドイツのバター・レシピ
さて、このように厳しい管理のもと製造されているドイツのバターが、最高の品質と味を消費者に提供していることはご理解いただけたことと思います。ドイツ人一人当たりのバター年間消費量が6kgを超えていることもうなずける結果です。

ドイツではバターはパンに塗って食べたり、塩茹でしたアツアツのジャガイモにのせて、あるいは茹でたホワイト・アスパラガスにのせて溶かしてソースとして楽しんだりと、バターそのものの味と食材の味を楽しむシンプルな食べ方をはじめとして、調理の際の油脂として、また料理のコクを出すための調味料としてなど、いろいろなシーンで活躍しています。

ここからは、バターを使ったレシピの幾つかを皆様にご紹介しましょう。尚、ここで使用していますバターはドイツの一般的バターで、食塩不使用バターとなります。いわゆる「無塩バター」です。日本では、逆に食塩が添加されたものが一般的となっていますので、ご注意ください。

オレンジ・バター(Orangenbutter)

■材料:
バター150g、オレンジ(ワックス処理されていないもの)1個、砂糖大さじ2

■作り方:
1) バターは室温に戻して柔らかくしておきます。オレンジは水洗いをして、皮を表面のみ薄くすり下ろします。これを2等分に切って、ジュースを大さじ1杯分絞っておきましょう。
2) バターをボールに入れ、すり下ろしたオレンジの皮、大さじ1杯のオレンジの絞り汁、砂糖を加えて練ります。バターが練り上がったら広口の器に入れ、冷蔵庫で冷やして出来上がりです。

簡単にできて、オレンジの香りがとてもお洒落なバターです。ソテーしたホワイト・アスパラガスの付け合せに、あるいはブリオッシュやミルクパンに薄く塗ってお楽しみください。

ハニー・マスタード・バター(Honig-Senf-Butter)

■材料:
発酵バター250g、ディジョン・マスタード小さじ4(すり切り)、ハチミツ小さじ4

■作り方:
室温に戻して柔らかくなった発酵バターにディジョン・マスタードとハチミツを混ぜ、よく練り合わせます。これを冷蔵庫で一日固まらせて出来上がりです。

このハニー・マスタード・バターは特にチキンなどの家禽肉に、あるいはハムやサーモンのサンドイッチなどと相性の良いバターです。是非一度お試しください。

ストロベリー・バター(Erdbeerbutter)

■材料:
バター60g、ハチミツ大さじ1、レモンの絞り汁大さじ1、胡椒少々、イチゴ100g、パン4枚あるいはブロートヒェン(小型パン)4個

■作り方:
バター、ハチミツ、レモンの絞り汁をホイッパーで泡立てるように、混ぜ合わせ、胡椒で味を調えます。飾り用にイチゴ1個をナイフで薄めにスライスしておき、残りのイチゴはザルに通して漉し、先のバターに混ぜ合わせます。

このストロベリー・バターをパンあるいはブロートヒェン(小型パン)に塗り、スライスしておいたイチゴを飾り、出来上がりです。春の香りがいっぱいのバターをお楽しみください。

チャイブ・バターソース(Schnittlauchsauce)

■材料:
バター120g、マスタード(粒原形のもの)小さじ2、生クリーム500ml、塩・胡椒適量、レモンの絞り汁小さじ4、チャイブ1束

■作り方:
1) マスタード(粒の原形のもの)小さじ1をすり鉢であたり、小鍋に入れます。ここへ大さじ3の水を加え、5分ほど煮て、ザルで漉します。
2) これをまた鍋に入れ、生クリーム、残りの粒原形マスタードを加えて約15分煮ます。鍋を火から下ろし、ホイッパーでかき混ぜながら、小さく切ったバターを徐々に加えていきます。この時バターは冷たくしておきましょう。塩、胡椒、レモンの絞り汁を加えて、味を調えます。食卓へ供する前に小口切りにしたチャイブを最後に加えて完成です。

いろいろな料理に合うバター・ソースです。塩茹でのジャガイモやその他の茹で野菜に、またチキンやサーモンのソテーなどにいかがでしょうか。お好みのお料理のお供に是非お試しください。

ほうれん草ライスとサイコロ・ベーコンのトルテ(Spinat-Reis-Torte mit würzigen Bauchspeckwürfeln)

■材料:
生地:
薄力粉300g、卵2個、塩小さじ1/2、バター(冷たくしたもの)150g
詰め物:
ほうれん草(葉の部分)1kg、スープストック1リットル、玉ネギ1個、ニンニク1片、バター75g、米350g、卵2個、ハードチーズ(エメンタールチーズ等)60g、生クリーム50ml、塩、胡椒、ナツメグ適量、ベーコン(スモークの効いたもの)150g

■作り方:
1) ふるった薄力粉をボールに入れ、卵、塩、冷やしたバターを加えてよく練り、生地を作ります。この時バターは小さく切ってから加えると、粉と馴染みやすく、練りやすいでしょう。最後に丸くしてラップに包んで冷蔵庫で休ませます。
2) ほうれん草は根の部分を少し長めに切り落とし、茎の上部から葉の部分を使います。これをよく水洗いして、塩を加えた湯の中でさっと湯がき、ザルに上げてよく水分を切ります。水気を絞った後、端から細かく切っておきます。
3) 米は洗ってザルに上げ、水気を切っておきましょう。
4) 鍋にバターを溶かし、細かくみじん切りにした玉ネギとニンニクを、透明になるまでよく炒めます。そこへ、細かく切ったほうれん草と米を加え、全体に混ぜ合わせてバターを馴染ませます。ここへ熱くしたスープストックを適量そそぎいれ、弱火で静かに煮ます。水分がなくなってきたら、さらにスープストックを加え入れ、かき混ぜます。これを数回繰り返し、最終的にスープ全量が入り、米がアルデンテに炊き上がったら出来上がりです。この時ライスが水っぽくなく、サラッと炊き上がっていることが理想的です。尚、オリジナルのレシピでは1リットルのスープストックを指定していますが、日本米の場合は800〜900mlが適量と思われます。米の堅さを見ながらスープを加えてください。
5) 大きいボールに卵、チーズおろし器でおろしたハードチーズ、生クリーム、塩、胡椒そしてナツメグ少々を入れ、よく混ぜ合わせます。ここへほうれん草ライスを加え合わせ、味を調えます。チーズ・クリーム液にライスを加える際は、ライスを少し冷ましてから少しずつ入れましょう。
6) 打ち粉をした台の上に生地を取り出し、麺棒で伸ばして、底取りのできるケーキ型(直径28cm前後)に敷き込みます。そこへ5)のほうれん草ライスを入れ、上から細かくさいの目に切ったベーコンをのせます。
7) 予熱をかけたオーブン中段、200℃で約30分焼きます。上のベーコンがキツネ色になったら出来上がりです。

尚、オーブンから取り出す際には必ず、生地に火が通っているか確認しましょう。ベーコンがカリカリになっても、生地が生のようでしたら、オーブンの温度を調節してください。

ボリューム満点のトルテです。昼食や夜食、あるいはお友達が集まるパーティーなどでお楽しみください。

今回の「ドイツ料理のレシピ」コーナーでは、バターを使ったドイツでとても好まれているお菓子、ブッター・クーヘン(Butterkuchen)とシュトロイゼル・クーヘン(Streuselkuchen)の仲間をご紹介しています。ブッター・クーヘンとはバター・ケーキと言う意味ですが、イースト菌を使った生地で作りますので、菓子パンに近いものと言っても良いかもしれません。またシュトロイゼル・クーヘンのシュトロイゼル(Streusel)とは、「上にかけるもの」と言う意味で、シュトロイゼル・クーヘンはケーキの上にそぼろ状にした生地をかけて焼いたものです。

この2種類のケーキはドイツの家庭でホームメイドケーキの一品として、さらには多くのコンディトライ(Konditorei:ケーキ屋)やベッカライ(Bäckerei:ベーカリ−、パン屋)の定番商品とも言えるもので、家庭や地方によって、またお店によって様々なバリエーションがあります。どちらも美味しいお菓子です。是非一度お試しください。

ドイツのバター・こぼれ話
ブッター(Butter)とはドイツ語でバターのことを言いますが、このブッターという単語を使った慣用句がドイツ語には幾つかあります。その中で最もポピュラーで頻繁に登場するのが「アッレス イン ブッター(Alles in Butter)」と言う慣用句です。直訳すると、「全てはバターの中にある」ということで、これは「全てうまく行っている」「OKだよ」といった意味となります。きっと「何がバターの中にあるの?どうしてそれが大丈夫につながるの?」と、不思議に思われていることでしょう。

これはその昔、中世の頃、上流階級の人々が引越しをする際に、樽の中にバターを詰め、その中に壊れやすい皿や花瓶などの陶磁器を沈めて、壊れないようにして運び、目的地に着いてからバターを溶かし、樽の中から貴重品を取り出したということに由来しています。「何もかもがバターの中」にあれば、それは「全て壊れずに大丈夫」ということで、ひいては「全て順調、OKだよ」といった意味合いを持つようになったわけです。日常的に使われる慣用句ですが、その意味の源を紐解いてみると、また歴史の味がしていますね。

さて、2回に渡り、ドイツのバターについてご紹介をしました。ドイツ産バターの美味しい秘密、愛される秘密をお分かりいただけたのではないでしょうか。何かの機会にドイツへご旅行に行かれることがありましたら、是非ホテルの朝食で出されるバターをチェックなさってみてください。「鷲」のマークが見つかることでしょう。

参照