ドイツではいろいろな種類の牛乳が製造され、様々なパッケージに充てんされて、デパートの食品売り場やスーパーマーケットの牛乳コーナーに並んでいます。また郊外に住み、近くに農場や牧場がある人たちは、ミルヒ・カンネ(Milchkannne:牛乳カン)を持って、直接、生乳を買いに行き、牛乳のある生活を楽しんでいます。ドイツで搾乳された2,800万トンの生乳はどのようにして、牛乳や乳製品になるのでしょうか。ここでは生乳がいろいろな種類の牛乳になるまでを、それぞれのドイツ語名称と一緒にご紹介してまいりましょう。
生 乳
ロー・ミルヒ(Rohmilch)
ロー・ミルヒのローは生と言う意味で、その名の通り「生乳」のことをいいます。搾乳されたままで、一切処理をしていないものです。ドイツでは乳用牛飼養農家や農場が、生乳を消費者に直接販売することが認められています。ただしドイツの『ミルヒ法令』では、「ミルヒ ・アップ ・ホーフ ・アップガーベ」(Milch-ab-Hof-Abgabe:(農場直接販売)と呼ばれる項目下で、消費者に直接販売する生乳の品質や取扱いについて厳しく規定しています。例えば販売農家は、その管轄の公的担当機関に届け出を行い、販売許可を取得することが義務付けられています。また健康への影響を考え、農場主は販売する際に、生乳を煮沸してから飲用するよう消費者に伝える義務も課せられています。
フォアツークス・ミルヒ(Vorzugsmilch)
店舗での販売を唯一許可されている生乳をフォアツークス・ミルヒと呼んでいます。フォアツーク(Vorzug)とは「優先、優秀」といった意味を持つ言葉で、フォアツークス・ミルヒはさしずめ「特別牛乳」と言ってもよいかもしれません。フォアツークス・ミルヒの取扱い規定は特に厳しく、管轄の公的機関が認可した農場からの出荷のみが許可され、乳牛の健康条件、搾乳の際の衛生条件、農場内作業担当者の条件や、搾乳から販売までの時間や流通条件など様々なことが制限、規定されています。またロー・ミルヒと同様、消費者はフォアツークス・ミルヒも煮沸殺菌してから飲用します。
生乳から牛乳へ
飼養農家や農場で搾られる生乳は牛の乳房に取り付けた搾乳機の管を通って、乳集積容器に直接集められ、4〜6℃の状態に保たれます。そして乳業工場からの集乳車によって、冷やされたままの状態で工場へ運ばれます。なお出荷される前の生乳は、ミルヒ・プローベ(=Milchprobe)と呼ばれている、色、臭い、味の検査を受けます。もちろん生乳取扱い全工程の中で最も重要なのは衛生条件ですので、生乳は細心の注意をもって取り扱われています。また工場へ運ばれた生乳は直ちに、最新の設備が整った検査室で、品質検査を受け、細菌数や不純物などが厳しくチェックされます。また生乳の乳脂肪含有量もこの段階で検査されます。そしてこれらの検査が終わると、いよいよ生乳が牛乳へと変わる段階に入ります。
清浄と分離(Reinigung und Separieren)
生乳はまず漉し器を通り、粗い不純物等が取り除かれます。そしてこの生乳を遠心分離機(Zentrifuge:ツェントリフーゲ、あるいはSeparator:ゼパラトアー)にかけ、毎分5500〜6000回転させ、細かい浮遊物やゴミの粒子を取り除きます。この際、分離機の中で生乳はマーガー・ミルヒ(脱脂乳)とクリーム(Rahm:ラーム、あるいはMilchfett:ミルヒ ・フェット)にいったん分離されますが、製造する牛乳の乳脂肪含有量に応じて、クリームはマーガー ・ミルヒへ戻されます。また残ったクリームはバターやザーネ(Sahne:生クリーム)に加工されます。このようにして、それぞれの製品の乳脂肪含有量に則して乳脂肪分を調整する工程をシュタンダルディジィールング(Standardisierung:規格化)と呼んでいます。尚、ドイツの生乳の乳脂肪分は通常3.8〜4.4%で、2006年度の平均値は4.16%でした(統計出典:ZMP)。
ドイツでは牛乳を調整した乳脂肪分の含有量によって、1)全乳(フォル・ミルヒ、乳脂肪分3.5%以上)、2)低脂肪牛乳(乳脂肪分1.5〜1.8%)、3)無脂肪牛乳(乳脂肪分0.5%未満)の3種類に分類しています。
1)フォル・ミルヒ(Vollmilch)
ドイツ語の「フォル=Voll」とは「完全な」、あるいは「全部の」と言った意味を持つ形容詞ですので、フォル・ミルヒを訳すと「全乳」となります。ただしドイツのフォル・ミルヒは日本での「全乳」の定義と多少違うものとなりますのでご注意ください。日本では乳脂肪分を調整していない牛乳のことを「全乳」と言いますが、ドイツの「フォル ・ミルヒ」には乳脂肪分無調整の牛乳と、調整しているものの2種類があります。ただしどちらも乳脂肪分3.5%が必要です。乳脂肪分無調整で、もとから牛乳に含有される乳脂肪分をそのまま含むものを「Vollmilch mit natürlichem Fettgehalt:フォル・ミルヒ ミット ナチュアリッヘム フェットゲハルト」と言い、この牛乳には乳脂肪分が3.5%以上含まれています。一方、乳脂肪分を3.5%に調整した牛乳を「Vollmilch mit 3.5% Fett:フォル・ミルヒ ミット 3.5%フェット」と呼んでいます。ドイツではフォル・ミルヒは生産量が最も多く、一番飲まれている牛乳です。
2)低脂肪牛乳
乳脂肪分を1.5〜1.8%に調整した低脂肪牛乳を、ドイツではタイル ・エントラームテ ・ミルヒ(Teilentrahmte Milch)あるいはフェット・アルメ・ミルヒ(Fettarme Milch)と言います。
3)無脂肪牛乳
乳脂肪分を0.5%未満にまで調整した牛乳を無脂肪牛乳と言い、ドイツでは、エントラームテ ・ミルヒ(Entrahmte Milch)あるいはマーガー・ミルヒ(Magermilch)と呼ばれています。
加熱処理(Wärmebehandlung)
こうして、乳脂肪分を調整された牛乳はその製品の成分規格にあった乳脂肪分を含むものとなります。そして次に牛乳は加熱殺菌の工程へと入ります。牛乳を加熱殺菌することは、『ミルヒ法令』の中で規定されています。
ドイツでの牛乳の加熱殺菌方法には大きく分けて3種類あり、その方法によって牛乳の賞味期限が変わってきます。
1)パストリジィールング(Pasteurisierung)
パストリジィールングとは、フランスの微生物学者・パスツールによって発見された殺菌方法で、日本語ではその英語表記でパスチャライゼーションと呼ばれています。
牛乳のパスチャライゼーションとしては、次の3つの方法が広く知られています。
- 高温短時間殺菌法(HTST法):Kurzzeiterhitzung(クルツツァイト・エアヒッツング)
- 低温保持殺菌法(LTLT法):Dauererhitzung(ダウアー ・エアヒッツング)
- 高温保持殺菌法(HTLT法)
ただし、ドイツでは高温保持殺菌法(HTLT法=High-Temperature Long-Time pasteurization)は牛乳の加熱殺菌には用いられておらず、ホッホ・エアヒッツングと呼ばれる高温加熱殺菌法をパスチャライゼーションの一つとして取り入れています。ここでドイツのパスチャライゼーションの主流である2つの殺菌方法をご説明します。
高温短時間殺菌法:クルツツァイト・エアヒッツング(Kurzzeiterhitzung)
これは短時間での加熱殺菌処理するもので、72〜75℃で15〜30秒間加熱殺菌します。日本では高温短時間殺菌法(HTST法=High-Temperature Short-Time pasteurization)と呼ばれているものですが、他の方法に比べて殺菌工程に時間がかかり、かつ良質の生乳が必要とされるため、日本の大手乳牛メーカーではほとんど採用されていません。ドイツではこの方法で処理された牛乳を、フリッシュ ・ミルヒ(Frischmilch:フレッシュ・ミルク)と呼び、牛乳本来の風味を保持した牛乳として、根強い人気を保っています。冷蔵保存で8〜10日間の賞味期限を持ちます。
高温加熱殺菌法:ホッホ・エアヒッツング(Hocherhitzung)
さらに高温の85〜127℃で数秒間の加熱殺菌をする方法です。この加熱殺菌処理をされた牛乳をドイツではESL-ミルヒ(ESL-Milch:Extended Shelf Life)と呼び、冷蔵保存で約3週間の賞味期限を持ちます。ESL-ミルヒの殺菌方法は、上記のHTST法と次にご紹介するUHT法との中間に位置する殺菌方法です。ESL-ミルヒは新鮮さを保った上に賞味期限が長いことから、昨今スーパーマーケットなどの乳製品冷蔵コーナーで、多く見られるようになった牛乳です。
2)超高温短時間殺菌法:ウルトラ・ホッホ・エアヒッツング(Ultrahocherhitzung)
これは超高温で加熱殺菌をする方法で、135〜150℃で1〜4秒間加熱されます。日本では超高温短時間殺菌法(UHT法=Ultra High-Temperature pasteurization)と呼ばれ、市販されている牛乳の95%以上がこの方法によるものです。殺菌温度が極めて高いため、滅菌と言ってもよいほど、完全に細菌や微生物を死滅させます。ドイツでは、この加熱殺菌方法で処理した牛乳をハー-ミルヒ(H-Milch)と呼んでいます。この牛乳は未開封の状態で少なくとも6週間、たいていのものが3〜4ヶ月間保存できます。
3)シュテリリジィールング(Sterilisierung)
ドイツ語のシュテリリジィールング(英語:Sterilization)は殺菌、滅菌という意味を持つことばです。ただし、牛乳の加熱殺菌方法の一つとして使われる際のシュテリリジィールングは、密封容器に充てんされた牛乳を110℃で10〜20分の長い分数をかけて加熱殺菌する方法のことを言います。この殺菌方法で処理された牛乳は、シュテリル・ミルヒ(Sterilmilch)とも呼ばれ、未開封・常温で約半年の賞味期間を持ちます。
均質化(Homogenisierung)
さてこのようにいろいろな方法で加熱殺菌された牛乳を、最後に均質化・ホモゲナイズします。これをドイツ語ではホモゲニジィールング(Homogenisierung)と呼びます。
搾乳された生乳はしばらく時間がたつと乳脂肪が表面に浮き上がり、上部に層をつくります。これは牛乳に含まれる脂肪球(Fettk?gelchen)が他の成分より軽いことから、ゆっくりと上部へ浮き上がってくることによって生じます。これを避けるために、この脂肪球に圧力をかけて小さくし、牛乳の中に均一に含まれるようにします。小さくされた脂肪球は、数日間冷蔵庫に入っている間も表面に浮かび上がることなく、いつでも美味しい牛乳が味わえるというわけです。これを牛乳の均質化、ホモ化と呼んでいます。
こうして完成した牛乳は冷やされ、ビンやプラスチック、あるいはテトラパックなどの容器に充てんされ、各地の販売先へ出荷され、さらには消費者のもとへとその駒を進めていきます。
その他の牛乳
上でご紹介しました牛乳の他にもラクトーゼ・フライエ・ミルヒ(Laktosefreie Milch)と呼ばれる、牛乳に含まれるラクトース(乳糖)を分解した牛乳があります。これは乳糖が体に吸収されない人のための牛乳で、牛乳に酵素(Enzym:エンツィーム)を加え、乳糖をグルコースとガラクトースに分解してしまいます。こうすると牛乳を飲んでもお腹がゴロゴロしてこないわけです。現在ではこの牛乳を使った、乳製品も製造されています。
ビオ・ミルヒ(Biomilch)と呼ばれるオーガニック牛乳も、昨今注目される牛乳です。これは牛の飼料に規定を設け、また牛乳処理施設も一般牛乳の処理施設とは別にして、オーガニック牛乳が製造されるように定めています。
<ドイツで人気の牛乳は?>
さて、ここでドイツにおける種類別の牛乳の生産量を簡単にご紹介しておきましょう。
右の表が示すように、乳脂肪分別にみると、ドイツでは3.5%以上の牛乳の生産量が最も多く、年間300万トンを超えています。なかでもパスチャライゼーションによる加熱殺菌を施した牛乳が根強い人気を保っているのが特徴です。日本では地域限定や観光牧場で販売されているタイプの牛乳です。
加熱殺菌方法別にみると、乳脂肪分1.5〜1.8%牛乳(低脂肪牛乳)では、そのほとんどがUHT法で加熱処理されていますから、全体としてはUHT法による低脂肪牛乳の生産量(約21.2万トン)が最も多いと言えます。
ドイツにおける牛乳の生産量 (乳脂肪分別・殺菌方法別) 2006年度
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乳脂肪分3.5%以上(フォル・ミルヒ)
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3,094.9
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殺菌方法
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パスチャライゼーション
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1,663.9
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UHT法
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1,428.4
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ステラリゼーション
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2.6
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乳脂肪分1.5 - 1.8%(低脂肪牛乳)
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2,674.7
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殺菌方法
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パスチャライゼーション
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553.0
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UHT法
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2,118.7
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ステラリゼーション
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3.0
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乳脂肪分 0.5%以下(無脂肪牛乳)
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145.9
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殺菌方法
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パスチャライゼーション
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21.6
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UHT法
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124.3
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ステラリゼーション
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0.0
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その他
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7.6
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合計
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5,923.0
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統計出典:ZMP / 2006年度数値は暫定値 単位:1,000t
<ドイツ・ミルヒ令について>
すでに皆様よくご承知のように、ドイツには多くの食品に関連する法律があります。牛乳に関しても幾種類もの法令があり、良質で安全な牛乳を消費者へ提供できるようにあらゆる面から規定を設けています。その中心となっているのが、『ミルヒ令』(Milchverordnung)と言われる法律で、牛乳製造の際の衛生条件や品質条件など基本となる部分を規定していました。ただしこの『ミルヒ令』は2008年1月1日よりEEC・欧州経済共同体(独:EG)共通の法律へと移行し、同時に幾つかの規定内容も変わりました。
加熱殺菌処理の表示方法も変更しており、移行前までは上でご紹介しました4種類の殺菌方法いずれかの表示義務がありましたが、新法では、1)パスチャライゼーション(HTST法)と、2)UHT法の2つのうちのいずれかの加熱殺菌方法を表記することとなりました。ホッホ・エアヒッツング(ESL-ミルヒ)とシュテリリジィールング(シュテリル・ミルヒ)の2種は、パスチャライゼーション(HTST法)と同程度あるいはそれ以上の加熱殺菌処理とみなされます。
また「均質化」(ホモゲナイズ)した旨の表記義務も免除となりました。
さて今回はドイツの牛乳についてご紹介しました。日本でもいろいろな種類の牛乳が販売されていますが、ドイツの牛乳の特徴についてご理解いただけたことと思います。今回の「ドイツ料理のレシピ」コーナーでは牛乳をふんだんに使った美味しい豚肉料理と、ヘッセン州・リューデスハイム出身のアップル・グラタンをご紹介しています。そのまま飲むだけの牛乳から、調理する牛乳に挑戦なさってみてはいかがでしょうか。牛乳が苦手と言われる方にも、きっとどちらも気に入っていただけると思います。是非一度お試しください。
牛乳を使って作る新鮮な乳製品は数々あります。次回はこれら乳製品の中から、クリーム類とサワーミルク製品をその美味しいレシピと一緒にご案内する予定です。どうぞお楽しみに。
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