ドイツの食材
ビール 1

ドイツのビール
ドイツと言えば、まずビールを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

ドイツにはビールを醸造するブルワリーがおよそ1,270もあり、それらの醸造所では数種から十数種もの銘柄のビールを造っていますから、合計すると5,000種を超えるビールが存在します。ドイツのビールは長い歴史に育まれ、ひとつの町や村にひとつの銘柄があると言われるほど、地方色が豊かです。それぞれが独特の飲みごし、香り、色を持つ、個性豊かなビールです。なかには日本をはじめ世界中に輸出されているビールもありますが、その町に行かなければ飲めないビールや、ビン売りは一切せずに醸造所に併設されたパブやレストランで樽から飲むだけのビールもたくさんあります。

ビール純粋令
ドイツのビール文化の奥深さを端的に示すのが、1516年4月23日にバイエルンのウィルヘルム四世が発布した「ビール純粋令」と言えるでしょう。『ビールは麦芽、ホップ、水のみによって造られるべし』と定められています。当時はまだ酵母が知られていませんでしたが、16世紀半ば、「ビール純粋令」にもビール酵母が加えられました。

ドイツ国内で醸造されるビールには500年近く前に発令されたこの「ビール純粋令」が受け継がれており、今も有効な食品に関する条例として世界最古と言われています。ドイツでは「ビール純粋令」が発令された4月23日を「ビールの日」と定め、各地でイベントが開かれています。

なお「ビール純粋令」は1990年に法制化され、ドイツのビール醸造の法的基盤として明確化されました。ドイツのビールは品質の高い素材にこだわり、自然醸造法により丁寧に造られています。ビール醸造に使われる水も、飲料水規格及びビール製造用水規格によって厳しく規制されています。日本のように米やコーンスターチなどの副素材を一切使わず、原材料に徹底的にこだわることが、ドイツビールの高品質・安全性の源になっているのです。4種の原材料のみを使用しながら、麦とホップの原産地や混合比、ビール酵母や水の微妙な違いから数千種ものビールが生み出され、それぞれの地域の人々に我が町のビールとして長く愛され続けています。

因みに日本では、酒税法により、麦芽、ホップ、水のほかに、副原料として米、麦、コーンスターチ、糖類などを使用することが認められています。酒税法上、決められた原料を用い、麦芽重量(水を除く原料に占める麦芽の割合)が67%以上のものがビールとされています。この比率を下回るものや、エンドウマメ、ハーブ、果汁など規定以外の原料を使用したものは「発泡酒」または「雑酒」などに分類されます。

ビールの原材料
ドイツ国内では500年近く前(1516年)に発布された「ビール純粋令」が、世界最古の食品規制として今も受け継がれており、ビールは、麦芽、ホップ、ビール酵母、水の4つ以外の原料は使ってはならないとされています。

ホップ
ホップはアサ科のつる性の植物で、松かさのような形をしており、大きさは数センチ程度です。ドイツではホップの花を「緑の黄金」と呼びます。ホップには雌株と雄株がありますが、ビールの原材料として使われるのは雌株につく雌花の集まりの毯果(花のかたまり)だけです。雄花があると雌花が受精してしまい、ビールの原料として欠かせない油分の組成が損なわれるため、ホップ畑からすべて取り除かれます。ホップは農産物のなかでも栽培管理が難しい品種と言われています。

ホップは古来から薬や野菜として珍重されてきました。昔はホップ以外の種々の薬草を使ってビールを醸造していたこともありましたが、1516年の「ビール純粋令」発布以来、ビールの原材料としてホップを使用することが義務付けられ、ホップが使われるようになってビールの品質も一段と向上しました。

ドイツ全体のホップ作付面積は約18,300ヘクタールにものぼり、これは世界全体のホップ作付面積のおよそ25%にあたります。ミュンヘンの北、バイエルン州のハラタウ(Hallertau)は世界最大のホップ生産地域で、作付面積はおよそ15,000ヘクタールと、ドイツ国内の80%以上がこの地域に集中しています。これに次ぐのがボーデン湖近くのテットナンク(Tettnang)の約1,600ヘクタールです。

ホップはビール造りに欠くことのできない重要な役割を果たします。ホップの第一の役割はビールに心地よい苦味を与えてくれることです。ホップを麦汁と一緒に煮沸することによって、ホップの中に含まれるアルファ酸が爽やかな苦味成分となります。苦味成分を抽出するために用いられるホップはビターホップと呼ばれ、現在、ドイツでは作付面積の約40%でアルファ酸を豊富に含むビターホップが作られています。

ホップのもう1つの重要な役割は、ビールに香りを与えることです。ホップに含まれる油分が、発酵・熟成の過程で生じるエステルなどの成分とともに、ビールのさまざまな微妙な香りを演出します。ビールに香りを与える目的で使用されるホップはアロマホップと呼ばれ、現在、作付面積の約60%を占めています。

さらに、ホップはビールの泡持ちをよくすることにも役立っています。ホップの苦味成分と、モルトから抽出されるタンパクが結合することで、ビールの泡持ちがよくなるのです。ですから、一般に苦いビールほど泡持ちがよいということになります。この他、ホップはビールの醸造工程中で、余分な蛋白質を凝固・分離してビールを清澄にしたり、雑菌の繁殖を抑え、食中毒菌や病原菌が増殖しにくくする役割も果たしています。

麦 芽
中世にはライ麦、小麦などほぼあらゆる種類の穀物がビールの原料として使われていましたが、現在ドイツで造られるビールにはすべてドイツの豊かな風土で育ったビール大麦(別名:二条大麦)が使用されます。(例外的にヴァイツェンビールには小麦のモルトを加えることが認められています。)

ビールづくりでは、大麦を洗浄、吸水させた後、発芽、乾燥させ「麦芽」にして使います。大麦が発芽するときにつくられる酵素が、大麦の穀粒の中に含まれるでんぷんやたんぱく質を、発酵に必要な糖分やアミノ酸に変える働きをするからです。100リットルのビールを造るには、およそ17.2kgの麦芽が必要とされ、これはビール大麦22kgに相当します。

ビール醸造に使用される大麦は、粒が大きく形が揃っていること、殻皮が薄く、発芽力が高いこと、発芽した際の酵素力が強いことなどの適性が要求されます。健康で良質な大麦を選ぶことが極めて重要になります。また、ビール大麦に含まれるたんぱく質が多いと麦芽のエキス分の低下やビールの香味・安定性に悪影響を与えるため、9.5%〜11.5%の含有量のものが最適といわれています。良質のビール大麦の産地として、ババリア、チューリンゲン、ザクセン、バーデンウェルテンベルグ、ラインラントパウティネート、ニーダーザクセンがあげられます。

ビールの成分の約90%は水です。それだけに水はビールの品質に大きな影響を与えます。ドイツの水はカルシウムやマグネシウムを豊富に含む硬水で、ビールに使用する水は、一般の飲料水規格だけでなく、それ以上に厳しい独自の規格に適合することが求められます。ビールは単に喉の渇きを癒す飲み物、低アルコール飲料にとどまらず、炭水化物、アミノ酸、ミネラル、ビタミンなどの栄養素を含む、無添加の自然食品で、「液体のパン」と呼ばれるほど、バランスの良い栄養食品なのです。

酵 母
酵母(イースト)は、麦汁の中の糖分をアルコールと炭酸ガスに分解してビールを生み出す、「発酵」の主役です。自然界には無数の酵母があると言われていますが、ビールの醸造に適した酵母をビール酵母といい、使われる酵母の種類によって、ビールに香りと味の個性が生まれます。また、酵母はアルコールを作るだけでなく、有機酸やエステルなどの成分も生み出し、麦芽やホップが持つ香り・味の要素と酵母の成分が調和しあうことにより、ビールの味が決まるといわれています。安定した品質の美味しいビールを造るためには、ビール酵母が重要な役割を果たします。なお、ビール酵母は良質なタンパク質、植物繊維、ビタミン、ミネラルを豊富に含む「栄養の宝庫」と呼ばれ、ビール醸造後に健康食品や調味料原料などに広く二次利用されています。

ビール酵母は、「上面発酵酵母」(別名:エール酵母)と「下面発酵酵母」(別名:ラガー酵母)とに大別されます。

上面発酵酵母
エール酵母は15〜20℃の常温で短期間に力強く発酵し、発酵の最中に酵母が液体の表面に浮き上がってきます。発酵と熟成が速く進むため、長期貯蔵は行いません。普通、1〜2週間で飲めるようになります。香りが高く、味に特徴のあるビールが多く、エール酵母を使用して昔ながらの製法で造られているドイツの上面発酵ビールには、アルトビール、ケルッシュビール、ヴァイツェンビールなどがあります。

下面発酵酵母
一方、ラガー酵母は4〜9℃の低温で8日間程度かけて穏やかに発酵し、発酵が終わりに近づくにつれて酵母が集まって発酵タンクの底に沈降していきます。発酵を終え、酵母を分離したビールは、貯酒タンクで5℃から0℃程度に冷やしながら、1ヶ月程度熟成させて仕上げられます。下面発酵はビール7000年の歴史から見れば比較的新しく、15世紀、ドイツ・バイエルンの僧院醸造場で、ラガー酵母を使って低温で醸造し、熟成させる技術が生まれました。なお、ラガーとはドイツ語で「貯蔵」を意味します。

ラガー酵母はエール酵母よりもエステル成分が少ないこともあって、すっきりした味わいが特徴です。ドイツの代表的な下面発酵ビールには、ピルスナービール、ヘルスラガービールをはじめ、メルツェンビール、エクスポートビールなどがあります。

当初、下面発酵ビールは、寒冷地で冬期だけ醸造し穴蔵で貯蔵され、夏は気温が高くても造れる上面発酵ビールが造られていました。19世紀半ば頃から、氷による貯蔵庫や冷凍機、低温殺菌法、酵母の純粋培養法など、次々と醸造技術が開発され、四季を通じて下面発酵ビールの醸造ができるようになり、その結果、現在は下面発酵の熟成ビールが主流となっています。日本の大手メーカーのビールのほとんどは下面発酵のラガービールで、今では世界の生産量の9割を占めています。

次回は、ドイツ各地の代表的なビールを紹介します。

参照